2013年6月24日月曜日

プロもうなる日本のデイトレーダー、安倍相場で「億円」操る

カーテンに閉ざされた大阪の賃貸アパートの一室。10あるコンピュータースクリーンを前に座る村上直樹氏(34)は、10秒間に目まぐるしく動く東京電力 株を売買し、36万円の利益を手にした。
    
かつては浄水器の営業マンだった村上氏は、今では裸足、短パン姿で自身のオフィスを陣取るデイトレーダー。株価558円で5万株の東電株の空売り注文を出し、下がった後は1円刻みで全株を買い戻す。数秒後に株価が反転すると、再度空売りで10万円の利益を積み増した。株式市場が取引を開始してちょうど10分で、日本の平均的なサラリーマンの1カ月分の収入以上を稼ぎ出した。
    
毎日20-30回の売買を繰り返す村上氏は、ことしになって運用資産を7500万円まで従来の2倍近くに増やした。しかし同氏によると、チャットで普段やり取りするデイトレーダー仲間の7人の中では、彼は最も小口のプレーヤーに過ぎず、親しい仲間らの1日売買代金の合計はおおむね80億-100億円程度に達すると言う。
    
5月には休暇を利用し、仲間数人とインドネシアのバリ島へ出かけた。コンピューターを駆使する仲間の輪が広がり、バカンスをリゾートで過ごす姿はヘッジファンドの運用者さながらだ。複数のデイトレーダーによると、こうした仲間の集まりは地域ごとにいくつもある

複数の証券会社に分かれる別々の口座での手順、形式を統一でき、高速発注できる株式注文ツール「T plus plus」を開発し、自身も5億円を運用している東京都内在住の河田正広氏(40)。普段より売買が盛り上がっている銘柄などを投資対象とし、1日に10回程度を売買する。パソコン画面の銘柄一覧に表示された個別銘柄の板情報をにらみつつ、「売買成立の点滅具合で相場の雰囲気を感じ取る」のがスタイルだ。
    
プロップデスクと同じ
   
河田氏は、絶えず移り変わる相場の軸や銘柄の連動性、市場テーマなどに目を配りながら売買を繰り返し、ことしの利益は2億円に達した。SBI証券が開示する売買代金ランキングの動向を見れば、個人の売り越しや買い越しが、その後の株価の方向性に先行していることが多く、「日本の個人投資家は売買がうまい」と話す。
    
JPモルガン証券・株式調査部長のイェスパー・コール氏は、日本で勃興するデイトレーダーの売買手法や投資の考え方、売買金額などについて、「この人たちはプロだ。普通の証券会社のプロップデスク(自己勘定取引)と同じ行動をとっている」と舌を巻く。
    
日本株はことしに入り売買が急拡大 し、個人投資家はその重要な立役者だ。アベノミクスによる金融緩和や成長戦略への期待から日本株に対する先行き期待が高まるとともに、個人投資家の売買は活発化。海外投資家主導が長年定着してきた日本株で、相場の方向性に影響を与えるもう一つの投資主体としてクローズアップしてきた。
    
東京証券取引所の投資部門別売買動向(東証、大証、名証1・2部等合計)によると、個人の5月の売買代金は過去最高となり、SBI証券や楽天証券、カブドットコム証券などネット証券大手5社の売買代金も最高額を更新。うち松井証券とマネックス証券は、2005年12月の従来記録を7年5カ月ぶりに塗り替えた。売買代金に占める個人のシェアも、昨秋の20%以下から5月には35.4%と08年12月以来の水準に達し、5割を超す海外投資家との差を縮めた。
    
立花証券で個人投資家の動向を長年見てきた平野憲一顧問によると、「投資対象銘柄数が少なく、1人の個人による全体への影響力が限られる為替の分野に比べ、対象が3000銘柄超に分散している株式市場では、資金力が増した個人が個別銘柄に与える影響度は大きい」と言う。日々のマーケットでは、デイトレーダーが中心となって個別銘柄を10%動かすケースも少なくないそうだ。
    
ボラティリティ拡大の一因か
   
日経平均株価 は、昨年11月中旬から年初来高値を付けた5月23日までの半年間で2倍近く上昇。その後相場は急激、大幅な調整局面に入り、ボラティリティ(変動性)が急拡大した。日本株市場における存在感で、個人に追われる立場となった海外投資家の間からは日本のデイトレーダーの動きを警戒する声が上がっている。
    
プロスペクト・アセット・マネジメントの投資責任者、カーティス・フリーズ氏(東京在勤)は、「デイトレーダーはボラティリティを作り出している」と主張。現在の東京市場のボラティリティの大きさは、「デイトレーダーにとっては素晴らしいが、私を含めた平均的な長期投資家にとっては恐い」と話す。
    
「日経平均は2カ月で2割上がって2割下がった。1年のボラティリティが2カ月で生じた」と話すのは、しんきんアセットマネジメントの山下智己主任ファンドマネージャー。山下氏はデイトレーダーがボラティリティを高めているとは言えないとしながらも、日本株市場で「個人の大勢としての力が増えてきている」との認識を示した。
   
挑戦心と恐怖心
   
日経平均のボラティリティが東日本大震災以来の大きさ に達した乱高下は、個人の株式投資人気にも影を落とし始めている。都内に住むOL、村山真木氏(38)も安倍政権誕生後の株高で自分も株式などの投資に挑戦してみたいと思いつつ、「5月末からの株価の急落を見て、現実はそう甘くないと痛感した」1人だ。
    
個人の売買代金シェアは直近で23.6%にまで低下し、5月までの勢いに陰りも見られる。投資で資産を増やしたい半面、一瞬にして大損する可能性もあり、「恐くて、挑戦するべきかこのところ日々迷っている」と村山氏。そんな彼女だが、「エンターテインメントやファッション、食品や外食関連などは株式優待制度なども充実している」と一方では興味ものぞかせ、「もし投資するなら、自分の生活スタイルや趣味に密着した形の会社を選びたい」と言う。
(引用元:ブルームバーグ)