表はキャッシュフロー 計算書に記載された支払配当額と自己株式の取得額の合計値が、5年以上連続して増えた企業29社の一覧だ。連続増加の年数が最も長いのは沖縄県でスーパーなどを展開するサンエー 。今回、分析対象にした2001年度以降では毎年、株主配分が増えていた。次いでアインファーマシーズ 、三菱UFJリース 、コーナン の3社が02年度以降、12年連続の増加。次いで日水製薬が04年度以降、10年連続で増やしていた。
銘柄名 | 連続 「配分増」 年数(年) |
総配分 性向(%) |
株価 上昇率(%) |
サンエー | 13 | 9.5 | 589.6 |
アインファマ | 12 | 13.8 | 310.5 |
三菱Uリース | 12 | 13.9 | 141.4 |
コーナン | 12 | 15.3 | ▲39.4 |
日水薬 | 10 | 39.1 | 84.7 |
イオンディラ | 9 | 24.0 | 267.4 |
アース製薬 | 9 | 46.8 | 14.9 |
NESIC | 9 | 25.1 | 51.9 |
三井海洋 | 8 | 23.1 | ▲19.2 |
コムチュア | 8 | 18.2 | 161.9※ |
ゲンキー | 8 | 13.7 | 98.6 |
ハマキョウ | 7 | 11.6 | 15.8 |
ピジョン | 7 | 40.3 | 471.4 |
JMS | 7 | 22.7 | 19.7 |
ハイデ日高 | 7 | 22.4 | 191.8 |
シーボン | 7 | 59.4 | 22.6※ |
ツムラ | 7 | 23.2 | 3.6 |
GMO-PG | 7 | 31.2 | 489.4 |
大研医器 | 6 | 31.5 | 517.0※ |
エーザイ | 6 | 102.9 | 11.1 |
エムスリー | 6 | 25.2 | 550.8 |
サンドラッグ | 5 | 19.2 | 122.5 |
ファストリ | 5 | 32.0 | 89.8 |
高速 | 5 | 21.2 | 36.5 |
アサヒHD | 5 | 35.2 | 19.5 |
塩野義 | 5 | 35.3 | 2.5 |
一六堂 | 5 | 26.3 | 29.1 |
シップHD | 5 | 23.5 | 590.0 |
ブックオフ | 5 | 54.1 | ▲24.3 |
(注)総配分性向、株価上昇率ともに株主配分を増やし始めてから、直近までの値。※は上場初値からの上昇率いずれも決して無理に株主配分の原資をひねり出しているわけではない。掲載した29社全体を見渡すと、株主配分を増やしていた期間中の純利益の総額に対する株主配分総額の割合は、エーザイ
が102.9%と100%を超えていたのを別とすると、高いところでも50%台だ。29社の単純平均は29.6%。つまり、本業で毎年のように増益を実現し、もうけの3分の1弱を株主に渡しているというのが、平均的な姿だ。
株主の多くはハッピーだろう。何しろ株主配分を増やし始めた当時(例えば、2001年度から増やし始めた場合は01年12月末)から6月16日までの株価上昇率はシップヘルスケアホールディングス
とサンエー
の6.9倍(590%高)、エムスリー
の6.5倍(551%高)をはじめ、大幅高が相次いでいるためだ。09年3月に上場し、その後連続で株主配分を増やした大研医器
の16日終値は上場初値の6.2倍(517%高)になった。
もちろん5年以上連続して株主配分を増やした企業は、東証1部全体のなかでは一握りにすぎない。ただ、こうした集計に今年度以降、仲間入りできそうな企業を調べてみると、13年度まで4年連続で株主配分を増やした企業は90社あり、株価は10年末から直近までで平均79%上昇している。13年度まで3年連続で株主配分を増やした企業も116社あり、株価は11年末から直近までで平均107%上昇している。
株主総会
シーズンを迎えているが、出席するのならば、事前に決算書や投資家向け広報(IR
)活動のための資料をよく読み、(1)連続して増配や自社株買い
の増額に取り組めるほど収益成長力が大きいか(2)経営者は株主を大切にしようと思っているか――などをよく点検したい。「ほとんどの企業は取引銀行に対しては背信的なことをしてはいけないと思っている。株主に対しても『損をさせてはいけない』という気持ちで臨むべきだ」(大崎貞和・野村総合研究所主席研究員)という。株主として納得できる企業のなかに、今後、株価が大きく上昇する銘柄が含まれている公算大だ。
ところで、株主の利益という観点では、最近、自己資本利益率(ROE
)が話題になる。日本企業の13年度のROEは平均で8.6%と、5%台だった12年度に比べて改善したものの、15%前後とされる欧米企業に比べて見劣りするという。米国企業はともかく、欧州の代表的な50銘柄の直近決算期の平均ROEは9.3%だから、日本企業が極端に低いわけではないが、資本効率を高めることは重要だ。
ただ、日本を代表する29銘柄(TOPIXコア30採用銘柄からデータのそろわない1社を除く)の2004年度から13年度までのROEの平均値と、03年末から直近までの株価倍率を比較すると、必ずしも高ROEイコール高株価ではない。29社の状況を示したグラフからは、(1)ROE上位の一握りの銘柄の株価上昇率は大きい(2)ROE下位の一握りの銘柄は株価が下落する(株価倍率1倍未満)可能性が大きい――といった傾向が読み取れなくもない。
しかし、ROEが中間ゾーンの銘柄を見ると、ROEと株価倍率とは何の関係もなさそうだ。米国のニューヨーク・ダウ工業株30種平均の採用銘柄についても似た分析をし、結果を15日付日経ヴェリタスのコラム「ベンチマーク」に掲載した。米国では10年間の平均ROEが12.3%のウォルト・ディズニーが10年半で株価を4.2倍にしたのに、平均ROEが55.8%のIBMは株価を2.3倍にしかできなかった。
一連の集計から、筆者は暫定的に(1)ROEは高ければ高いほどいいというわけではない(2)ROEだけを基準に投資銘柄を選ぶのは、失敗の可能性が大きい――と考えている。いちごアセットマネジメントの坂口陽彦最高執行責任者(COO)は「日本の企業経営者の目がROEに向かっているのはいいことだ」と話していた。ただ、企業や投資家がROEを上手に使いこなすためには、理論と実践の両面でさらなる検討が必要かもしれない。
最後に日米の3社の長期の株価動向を紹介する。07年に買収防衛策を発動して米国の投資ファンドによる株式買い集めを退けたブルドックソース
、王子製紙が06年に仕掛けた敵対的買収を安定株主工作で切り抜けた北越紀州製紙
(当時は北越製紙)、04年に敵対的買収によってピープルソフトを手中に収めた米オラクルである。
日米の株価動向が違うのは、敵対的買収が成立する市場かどうかというだけではない。ブルドックソースも北越製紙も敵対的買収を拒否するにあたって、「どちらが株主利益を極大化するか」という観点からの検討を十分にしてこなかった。そのツケなのか、株価はアベノミクス相場にも乗れず、株主に機会損失を与える結果となった。株主の利益を軽視すれば、株価は横に動く。タテに動かすには、株主の利益との好循環を作ることが大切だ。
が102.9%と100%を超えていたのを別とすると、高いところでも50%台だ。29社の単純平均は29.6%。つまり、本業で毎年のように増益を実現し、もうけの3分の1弱を株主に渡しているというのが、平均的な姿だ。
株主の多くはハッピーだろう。何しろ株主配分を増やし始めた当時(例えば、2001年度から増やし始めた場合は01年12月末)から6月16日までの株価上昇率はシップヘルスケアホールディングス
とサンエー
の6.9倍(590%高)、エムスリー
の6.5倍(551%高)をはじめ、大幅高が相次いでいるためだ。09年3月に上場し、その後連続で株主配分を増やした大研医器
の16日終値は上場初値の6.2倍(517%高)になった。
もちろん5年以上連続して株主配分を増やした企業は、東証1部全体のなかでは一握りにすぎない。ただ、こうした集計に今年度以降、仲間入りできそうな企業を調べてみると、13年度まで4年連続で株主配分を増やした企業は90社あり、株価は10年末から直近までで平均79%上昇している。13年度まで3年連続で株主配分を増やした企業も116社あり、株価は11年末から直近までで平均107%上昇している。
株主総会
シーズンを迎えているが、出席するのならば、事前に決算書や投資家向け広報(IR
)活動のための資料をよく読み、(1)連続して増配や自社株買い
の増額に取り組めるほど収益成長力が大きいか(2)経営者は株主を大切にしようと思っているか――などをよく点検したい。「ほとんどの企業は取引銀行に対しては背信的なことをしてはいけないと思っている。株主に対しても『損をさせてはいけない』という気持ちで臨むべきだ」(大崎貞和・野村総合研究所主席研究員)という。株主として納得できる企業のなかに、今後、株価が大きく上昇する銘柄が含まれている公算大だ。
ところで、株主の利益という観点では、最近、自己資本利益率(ROE
)が話題になる。日本企業の13年度のROEは平均で8.6%と、5%台だった12年度に比べて改善したものの、15%前後とされる欧米企業に比べて見劣りするという。米国企業はともかく、欧州の代表的な50銘柄の直近決算期の平均ROEは9.3%だから、日本企業が極端に低いわけではないが、資本効率を高めることは重要だ。
ただ、日本を代表する29銘柄(TOPIXコア30採用銘柄からデータのそろわない1社を除く)の2004年度から13年度までのROEの平均値と、03年末から直近までの株価倍率を比較すると、必ずしも高ROEイコール高株価ではない。29社の状況を示したグラフからは、(1)ROE上位の一握りの銘柄の株価上昇率は大きい(2)ROE下位の一握りの銘柄は株価が下落する(株価倍率1倍未満)可能性が大きい――といった傾向が読み取れなくもない。
しかし、ROEが中間ゾーンの銘柄を見ると、ROEと株価倍率とは何の関係もなさそうだ。米国のニューヨーク・ダウ工業株30種平均の採用銘柄についても似た分析をし、結果を15日付日経ヴェリタスのコラム「ベンチマーク」に掲載した。米国では10年間の平均ROEが12.3%のウォルト・ディズニーが10年半で株価を4.2倍にしたのに、平均ROEが55.8%のIBMは株価を2.3倍にしかできなかった。
一連の集計から、筆者は暫定的に(1)ROEは高ければ高いほどいいというわけではない(2)ROEだけを基準に投資銘柄を選ぶのは、失敗の可能性が大きい――と考えている。いちごアセットマネジメントの坂口陽彦最高執行責任者(COO)は「日本の企業経営者の目がROEに向かっているのはいいことだ」と話していた。ただ、企業や投資家がROEを上手に使いこなすためには、理論と実践の両面でさらなる検討が必要かもしれない。
最後に日米の3社の長期の株価動向を紹介する。07年に買収防衛策を発動して米国の投資ファンドによる株式買い集めを退けたブルドックソース
、王子製紙が06年に仕掛けた敵対的買収を安定株主工作で切り抜けた北越紀州製紙
(当時は北越製紙)、04年に敵対的買収によってピープルソフトを手中に収めた米オラクルである。
日米の株価動向が違うのは、敵対的買収が成立する市場かどうかというだけではない。ブルドックソースも北越製紙も敵対的買収を拒否するにあたって、「どちらが株主利益を極大化するか」という観点からの検討を十分にしてこなかった。そのツケなのか、株価はアベノミクス相場にも乗れず、株主に機会損失を与える結果となった。株主の利益を軽視すれば、株価は横に動く。タテに動かすには、株主の利益との好循環を作ることが大切だ。