2013年6月9日日曜日

週明けの市場は株高へ 注目は日銀の次の一手

 5月下旬以降、世界の金融市場を不安定化させた米国の量的緩和政策の解除観測は、7日発表の米雇用統計ではっきりと後退した。7日の欧米株はいずれも大幅高を演じた。週明けの東京市場でも、株高が進む公算が大きく、市場は安定に向かいそうだ。

(以下引用)
 乱高下気味の円相場も、日銀が週明けの政策委員会で金利抑制策を効果的に打ち出せれば、徐々に円安傾向に戻る可能性が高いだろう。

緩和の「出口」は後退した(5月22日、米上下両院経済合同委員会で証言するFRBのバーナンキ議長)=AP・共同 米雇用統計で最大の焦点だった5月の非農業部門の雇用者数は前月比17万5000人増と、市場予想の16万3000人程度を若干上回った。だが、量的緩和解除への政策変更の目安とされる同20万人増には届かなかったうえに、4月分の増加は16万人から14万9000人に下方修正され、解除観測を打ち消した。

 バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は量的金融緩和に関し「労働市場の見通しが十分に改善するまで続ける」と語ってきた。シカゴ連銀のエバンス総裁は労働市場の改善を「非農業部門の雇用者数が6カ月以上20万人づつ以上増えること」と語ったことがあり、市場関係者の間で重要な目安となっている。

 この20万人という基準に5月の雇用統計は達していないし、過去分の統計もその水準にははるかに遠い。来月に20万人を超えたとしてもそこから6カ月程度の推移を見定めるとなると、年内の量的緩和解除は難しい。それが、7日の米国市場での緩和解除の観測後退につながった。

米景気が緩やかに回復しているのも間違いなく、緩和解除を巡る材料が相場の大きな変動要因であることに変わりはない。ただ、18、19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、FRB関係者の発言機会も当面はなくなる。
 今週もいくつかの米景気指標の発表があるが、7日の雇用統計で作られた「緩和解除は遠のいた」との観測を打ち消すほどの材料となる可能性は小さい。米株式相場は堅調推移が見込まれる。

 日本株に関しても、シカゴの日経平均先物相場は7日の米雇用統計発表後に1万3240円まで上げて同日の取引を終えている。7日の東京市場終値(1万2877円)に比べ363円高であり、この流れを受けて週明けの東京株は前週末比での上昇から入る可能性がきわめて濃厚だ。

 一方、円相場は株に比べると複雑だ。米国の量的緩和の解除観測の後退がドル金利の低下につながるようなら円高材料になりかねない。しかし、先週急速に進んだ円高は、アベノミクスへの期待で「日本株買い・円売り」のポジション(持ち高)を作ってきた海外投資家が、それを巻き戻し、取り崩したことが要因だった。株が安定化すれば、円安基調に戻る可能性が高い。

 気がかりなのは、円と日本株の不安定化の背景に米金融政策とともに、日銀への信認低下の芽が出ていることだ。その証拠にインフレ連動債から推計する期待インフレ率、「ブレーク・イーブン・インフレ率」が下がり始めている。

 一時は1.9%程度まで上がっていたが、先週末は1.6%程度となった。インフレ率を押し上げるとする日銀の政策遂行能力への信認低下が表れている。外国人投資家の「日銀は長期金利をコントロールできるのか」との日本のストラテジストへの問い合わせは、依然として増え続けているという。その意味で、10、11日に予定されている日銀の政策決定会合はきわめて重要だ。固定金利で国債を買い入れることから日銀の意思が表れやすく、「シグナルオペ」とも呼ばれている固定金利オペを現在の1年以内から2年以上に対象とする国債の残存期間を広げる検討をしている。

10、11日の政策決定会合が焦点(日銀の黒田総裁、5月22日 日銀本店) 「すでに債券市場は固定金利オペの2年への拡大は織り込み済み」(野村証券の松沢中チーフストラテジスト)といわれる。万一、決定を見送るようなら、債券市場の混乱は避けられないだろう。市場の安定化をめざすなら会合の初日の決定や即日のオペ通知があってもいいほど。

 国債相場の不安定化も円や株の不安定化の一因だったと考えられている。実体経済は雇用や消費を中心に確実に景気回復に向かっているだけに、日銀の次の一手への市場の関心は極めて高い。
 (引用元:日経新聞)