2013年5月18日土曜日

円安で恩恵を受ける企業は、売上高と有形固定資産の国内外比率でチェック

為替変動による影響というと、真っ先に報道されるのが自動車業界。1円の円高・円安で受ける影響は、営業利益ベースでトヨタ自動車は350億円、日産自動車は200億円、ホンダは160億円などといわれることが多いものだ。

 ただし、自動車各社の輸出台数や輸出金額が多いことから注目が集まるが、これまたトヨタを例にとれば、海外における車両販売台数の7割以上は海外生産によるもの。つまり、輸出型企業からの脱出を指向した生産の現地化やリスクヘッジで、自動車各社の為替変動による影響は以前に比べれば小さくなっているといっていいだろう。

 では新たに、円安で利益拡大が見込まれる隠れた企業を探すにはどうしたらいいだろう。1つのポイントは、売上高と有形固定資産の国内外比率を見てみることだ。
 建物、機械、車両運搬具、工具、土地といった生産拠点などの資産価値を示す有形固定資産(一部企業は「長期性資産」)の国内割合が高いということは、国内生産が中心であるということ。そのうえで、海外売上高比率が高ければ、円安で恩恵を受ける輸出主導型企業とみていい。海外売上高比率が50%以上の一方で、海外有形固定資産の割合が50%以下を目安としよう。さて、「海外売上高比率50%超」「海外有形固定資産比率50%以下」の企業とは――。
自動車各社でいえば、トヨタや日産、ホンダは海外売上高比率が6割から8割に達しているが、同時に有形固定資産の割合も50%超であり、この目安からすれば、必ずしも輸出主導型企業とは呼べないということになる。一方、マツダ富士重工業いすゞ自動車は海外売上高が6割~7割台の一方で、有形固定資産の海外比率は10%内外にとどまる、典型的な輸出主導型企業である。 電機業界で該当するのはソニー東芝。両社は海外売上高比率が高い一方で、有形固定資産の海外比率は2割台にとどまる。 造船重機・建設機械では川崎重工業クボタ住友重機械工業三井造船、それに海外有形固定資産割合が3割強ながら海外売上高比率が8割のコマツも円安享受を受ける代表的企業である。

売上高と有形固定資産を見れば、生産効率も見えてくる

やはり、円安効果が高いのは精密機器や医療機器、工作機械各社だろう。キヤノンニコンは、海外売上高比率が8割を超す一方で、有形固定資産の海外割合は2、3割台にとどまる。 医療機器業界では、テルモなどが該当。工作機械や産業ロボットの主要メーカーは、海外売上高比率がおよそ8割、その一方で、海外有形固定資産の割合がほぼゼロのファナックを筆頭に、主要各社は売上高は海外が主力、生産拠点は国内中心というパーターンだ。
鉄鋼や化学など素材メーカーは国内販売が中心だけに、「海外売上高比率50%超」かつ「海外有形固定資産比率50%以下」に該当する企業は限定的。住友化学DIC東洋ゴム工業日本電気硝子などである。
有形固定資産と売上高からは、生産効率を見る目安にもなる。有形固定資産が大きい割に売上高が小さいということは、生産拠点を生かし切っていないということ。シャープの有形固定資産額は東芝とほぼ同じだか、売上規模は東芝の4割にとどまっている。

円安歓迎一色でもない

円安の恩恵を受ける起業の従業員にとっては、リーマンショック以降ダウンしている給与の回復も期待したいところだろう。 ただし、「円安歓迎」一色でないのも事実。たとえば、原発事故にともない増大している火力発電用のLNG(液化天然ガス)など、海外からの調達に依存しているエネルギーや食糧購入費の負担は増す。また、「ユニクロ」のファーストリテイリングや家具販売のニトリホールディングス(HD)などに代表されるように、自社販売商品の「海外生産・輸入」型の企業は、業績下降要因になり得る。