2013年5月23日木曜日

有力ヘッジファンドが予言する日本の債券危機

米ダラスに本拠地を構えるヘッジファンド、へイマン・キャピタルの創業者であるカイル・バス氏が予想しているのは、世界第3位の経済大国である日本が本格的な金融危機に見舞われるという危険な事態にほかならない。

(以下引用)
 今年のヘッジファンドの戦略は、日本円を空売りする一方で輸出ブームに沸きそうな日本株を買うというものだが、いわゆる「アベノミクス」――安倍晋三首相による景気刺激策――には、バス氏が3年前から予言しているストレスの兆候が垣間見えるという。

 バス氏は長期にわたって予言し続けているため、陳腐な理屈を振り回す弱気筋にすぎないと見られているかもしれない。金利は低下する一方で、金利の上昇(債券価格の下落)に賭けた投資家は次々にやられたのだ。

■金利がコントロール不能に

 しかしバス氏は、利回りの上昇では済まない事態を予想している。「2~3年のうちに日本は債券危機に見舞われるだろう。債券危機というのは、スプレッド(利回り格差)が拡大するだけの話ではない。金利や通貨がコントロールできなくなるという話だ」

 しかし、バス氏は変人でもなければ、永遠の弱気筋(投資の世界における止まった時計のようなもの)でもない。

 同氏は2007年の住宅価格急落を予測し、それに関連する取引で利益を得た数少ない市場関係者の1人だ。複数の投資家の話によれば、同氏が運用するヘッジファンド(運用資産15億ドル)は2006年以降、平均で年率25%のリターン(運用手数料控除後ベース)を計上しているという。

 また、バス氏は買い持ちのポジションを取るのが普通だ。投資対象は各種債権の証券化商品や、銀行の貸付債権(職業別電話帳のような小規模事業向け広告事業を展開する米スーパーメディアの銀行ローンなど)だ。

 自身が日本に関連してどんな取引を行っているか、バス氏は詳細を語らないが、オプション取引のポジションがあることを示唆している。世界金融危機前の不動産担保証券(MBS)絡みのオプションのように、適正でない価格がついているオプションだ。

バス氏によれば、以前の日本弱気筋は日本の資金繰りを支えるメカニズムを見落としていた。かつては、経常黒字の対国内総生産(GDP)比は3~6%で、財政赤字のそれは3%でしかなかった。一方で、日本の貯蓄超過主体は安心して日本国債を買っていた。
 ところが、人口は減少基調に転じており、貯蓄不足主体が貯蓄超過主体をしのぐようになっている。経常黒字はほとんどなくなり、財政赤字はGDP比11%に膨らんでしまっている。

 「国内で資金繰りをつけるメカニズムが、文字通り一夜にして変わってしまった」とバス氏は言う。

 この見方に対する標準的な反論は2つある。1つは、純債務は政府の保有資産により4兆円相殺されるというもの。もう1つは、日本国債を買っている国内勢はどんな危機においても政府を支援するというものだ。

 「債務総額か純債務額かという話は、まったくばかげている」とバス氏はこれを切り捨てる。「どの資産であれ政府が売却しようとすれば、それをきっかけにパニックが起こるだろう」

■8割の国内投資家は「逃げる」

 バス氏は日本の貯蓄家の愛国心についても同様に懐疑的で、「彼らの愛国心と政府に対する愛情を混同してはならない」と言う。

 同氏は、1009人の日本人投資家を対象とした調査を委託し、「仮にあなたの国で債券危機が生じ、政府が日本国債をもっと買うよう訴えかけてきたら、あなたは国債の購入を増やしますか、増やしませんか」と尋ねた。すると、8%が買うと答える一方、83%は「ただ手を引くだけでなく、走って逃げる」と回答したという。

 バス氏は、その選択は2年以内にやって来る可能性が高いと言いながら、「70年間に及ぶ債券のスーパーサイクルの終わりを多少なりとも正確に予想できると言うのは、考えが甘い」と付け加える。

バス氏はさらに、自分が間違っていることを心から願っていると話している。また、同氏は国債に関しては政府が失敗する方に賭けているが、円に関しては成功する方に賭けている。円安が進み、日本の競争力が高まり、金利が安定した状態が続けば、「世界は今よりずっと良い場所になる」とバス氏は言う。
 だが、バス氏の読みが正しかった場合、「1000兆円規模の資金が債券を買い持ちにしているのだとすれば、全員が間違った側にいる」ことになり、さらに数兆ドル規模の金利スワップが存在している可能性もあると指摘する。「だから、誰がどこにいて、誰が間違った側にいるのか考えたら、すべての人が間違った側にいる、というのがその答えになる」
(引用元:英フィナンシャル・タイムズ紙)