2013年9月20日金曜日

キャピタルゲイン課税引き上げに備える日本

政府当局者や証券会社は、新しいある計画によって増税のマイナスの影響が相殺され、より多くの人が株式投資を行うことで景気も支援されると期待している。この計画―かわいい犬を使ったり米大リーグのスター、イチローを起用したりして活発な宣伝が行われている―は、いくつかの条件は付けられているものの、小規模な個人投資家が非課税で株式を買えるというものだ。

 しかし、一部の投資顧問は、来年1月1日に予定されている10%から20%へのキャピタルゲイン税率の引き上げは、日経平均が今年に入ってからの歴史的急伸の訂正局面から再び上昇しようとしている時に、株価下落を招きかねないと慎重だ。

 大和証券エクイティ営業部の長谷川誠氏は最近の投資セミナーで、「11月後半から12月にかけて株式の需給が悪くなる可能性があるので、注意をしてほしい」と指摘した。同氏は、企業オーナーなどの大規模株主は低い税率で利益を確保するために年末に投げ売りに出る可能性があるとしている。

 日本の規制当局は、多くの機関投資家は増税に直接的な影響を受けないだろうとしているが、一部の資産運用マネジャーは、その顧客である個人投資家が投資信託を投げ売りする可能性があるため懸念している。そうなれば、小型株や中型株ばかりでなく、外国人投資家が好む大型優良株の相場も圧迫されると見られる。

 しんきんアセットマネジメント投信のファンドマネジャー藤原直樹氏は、市場全体への重石になる可能性を否定できない、と話した。しんきんアセットは約65億ドル(6500億円)の資産を運用している。

 キャピタルゲイン税への懸念、および消費税率の倍増を実行するのかどうかという、より喫緊の問題は、政府債務が圧倒的な水準に膨れ上がるのを防ぎながら日本の景気を刺激しようとしている安倍晋三首相が直面するジレンマを物語っている。


 財務相や経済産業相は多くの著名なエコノミストらと異口同音に、消費税引き上げは今では日本の国内総生産(GDP)の倍にまで膨れた巨額の債務を抑制する上で極めて重要だと述べている。しかし、一部の首相顧問は、首相の刺激策が日本経済を長期の不振から引き上げようとしている時に増税をすれば、消費が打撃を受けると警告している。

 キャピタルゲイン税の引き上げの決定は、主に少数の大規模個人投資家に有利な現在の税率からよりも、小規模投資家の基盤拡大を狙う的を絞ったインセンティブによって市場が強化される、との計算に基づいて下されたものだ。

 この論理は、キャピタルゲイン税が26%から10%に引き下げられた2003年の経験から来ている。当局者らは、03年の減税で株価は上昇したが、日本の個人株主は高齢者や富裕者という狭い層からほとんど拡大しなかったと述べた。1990年代初めのバブル崩壊以降、ほとんどの個人投資家は東京市場での買いをちゅうちょするようになり、日本の株式投資は米国に比べてはるかに少ないままだ。

 日銀によれば、16兆ドルに近い日本の一般家庭の金融資産の半分以上は貯蓄で、株式と投資信託はわずか12%にすぎず、米国の46%を大幅に下回っている。

 アベノミクスの一つの重要なゴールは、投資家に現金や国債といった安全で低利回りの投資をやめさせて、よりリスクのある株式に投資させることだ。このシフトは市場と企業の再活性化にとって不可欠と見られている。

 このシフトに拍車をかけられると見られるのは、10年以上にわたるデフレから脱却して、2年以内に物価を2%上昇させるという日銀の政策だ。この政策が成功するか、国民がその成功を信じれば、現金の所有はあまり魅力的でなくなり、投資家は高利回りの資産を求めることになる。

 当局者らは、NISA(ニーサ=少額投資非課税制度)は小規模投資家にその追加リスクを取らせるものになると見ている。大和証券の田口宏一・営業企画部副部長は、「NISAを通して個人投資家の裾野を拡大していくことに取り組んでいくことで(貯蓄から投資への)マネーシフトを後押ししていきたい」、と話した。

 英国の少額投資非課税制度(ISA)にならったNISAは、投資家は毎年最大100万円の投資を非課税でできるというもので、期間は最大5年。来年1月1日にスタートする。設定された口座の資金は個々の株式から投資信託、上場投資信託(ETF)、それに不動産投資信託(REIT)までさまざまなものに投資できる。5年の期間が終了した時に税金は課されず、その後に新しいNISAを開くこともできる。このプログラムは23年末まで続けられる。

 10月に登録が始まるのを前に、証券会社や銀行は電車のつり広告やテレビコマーシャル、週末の投資セミナーなどで派手な宣伝を繰り広げている。英国の例から推定すると、NISAの投資総額は20年までに25兆円程度になると見られる。これは一般家庭の貯蓄の3%近くがシフトすることを意味する。野村アセットマネジメントは、NISAの利用者は約1600万人と、20歳以上の日本人の約15%に達すると予想している。

 IT企業に勤めているアサノ・ミカ氏(30)は初めての株式投資をしようかと考えている。同氏は最近、NISAについて学ぶために、職場の帰りに大和証券のイブニングセミナーに行った。セミナー後、「今まで株はやったことがなかったが、100万円が非課税になるなら、始めるのもお得かもしれない」と話した。まず投資信託に貯蓄の一部である10万円から20万円を投資し、最終的には個別銘柄を買うことを考えているという。

 ただ、NISAには条件があり、一部の投資家はこれを理由に投資しないかもしれない。英国の例とは異なり、投資家はNISA口座の中で頻繁に取引することができない。いったん株式が売却されると非課税の特典がなくなるためで、これは5年の期間内でも適用される。また、NISA内での損失をNISA以外の通常の口座での利益で相殺することもできない。

 NISAは新しい投資家を呼び込むというよりは、節税をしようとする既存投資家の関心を呼ぶことになるのかもしれない。