2013年9月19日木曜日

9/19FRBの緩和縮小見送り、投資家は困惑

ウォール街で古くから言われている言葉の1つに、金融市場は不透明感と混乱を嫌う、というものがある。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は18日、債券買い入れ策の縮小計画を巡り、市場に不透明感と混乱をもたらした。市場はこれを好感し、米国の株価指数は過去最高値を更新した。

 ダウ工業株30種平均は前日比147.21ドル(0.95%)高の1万5676.94ドルと、終値ベースで過去最高値を付けた。米国債相場も2011年11月以来の大幅な上げを記録した。商品価格は急騰し、海外株は米国株以上に恩恵を受けた。

 FRBが結局、債券買い入れの縮小開始を見送り、投資家の驚きを誘ったことで、短期的には楽観ムードが広がった。ただ長期的には、資金運用担当者らは再び悲観に転じる可能性がある。米国の経済成長見通しを引き下げるというFRB関係者の判断が正しければ、来月から始まる7-9月期の企業決算報告は期待外れに終わるのではないかと一部の投資家は懸念している。そうなれば株価にとってマイナスだ。

 さらに、全体として見れば、アナリストらは現在もFRBが年内に緩和策縮小に着手するとの見方を変えていない。つまり、10月29日・30日に予定される次回の連邦公開市場委員会(FOMC)が近づくにつれ、8月に市場を弱気にさせたのと同じ不透明感と混乱が広がり、株価は下落しかねない。

 資産運用会社ブラックロックのチーフ投資ストラテジスト、ラス・ケステリッチ氏は「FRBは長期的には(金融市場への)支援の手を緩めるだろう」とし、「企業利益の拡大が株高の要因となる必要がある」と述べた。

 ケステリッチ氏など複数の資産運用担当者は、運用資産の一部を新興国株に移したり、顧客が最終判断を下す勘定について新興国に資金を移すよう助言したりしている。

 市場は概して目先の見通しに基づいて動く。FRBの政策が現状維持されることは、2つの理由から短期的な好材料と言える。まず、景気への下支え効果が予想されたよりも大きくなり、経済成長を損なう恐れがなくなる。さらに、緩和策自体は市場に追加資本を直接供給する形で実施されているので、単純に機械的な理由から株価と債券価格を下支えしやすい。

 FRBの緩和策では、主に大手銀行から米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を月に計850億ドル買い入れている。銀行がこのような取引で得た資金を全て企業や個人向けの融資に振り向けるのはほぼ不可能だ。安全性の高い投資商品は利回りが低いため、こうした資金の大部分は相対的にリスクが高い株式や債券に向かっている。投資家は、このような資産を短期的な利益が見込める最善の投資先と考えている

 FRBの買い入れ対象が債券であるため、緩和策の恩恵を最も受けるのは必然的に債券のように思える。だが、投資家は通常、FRBから得た資金をリスクが高く上げ足も速い投資商品に振り向けるもので、FRBが債券買い入れを年内に縮小するとの見方も維持している。アナリストらはこうした理由から、債券には株式ほど恩恵が及ばないと予想している。投資家は早晩、FRBが債券買い入れを縮小するとの観測の下、再び米国債から資金を引き揚げる、というのがアナリストの見立てだ。

 このような流動性は、短期志向のトレーダーには好まれているが、より長期の視点で投資している向きの一部は快く思っていない。長期投資家は特に米国株が割高になり、政府支援への依存度を強めすぎることを警戒している。こうした向きによると、FRBが緩和策の縮小を今後始める場合、市場の反応は今月縮小に着手していた場合よりも悲観的なものとなりかねない。

 BMOプライベート・バンクの最高投資責任者(CIO)、ジャック・アブリン氏は「米国株は本質的な価値ではなく緩和策に基づいて取引されている」と述べた。「(株高の要因が)流動性支援から、企業の利益や売上高といったより具体的な材料へ徐々に移行するものと期待していた」と言う。

 FRBは今後数カ月にわたり経済成長と企業決算が期待外れに終わると予想しているため、緩和縮小をさらに遅らせるのではないか、とアブリン氏は懸念している。同氏としては、顧客の運用資金の一部を欧州株や新興国株に移すことを検討している。

 アブリン氏は「FRBが様子見を決めた理由については若干気がかりだ。米経済は生命維持装置なしでは自立できないほど弱いというのだろうか」と述べた。

 FRBは18日に2013年と14年の経済成長見通しを下方修正した。

 アブリン氏は、FRBの債券買い入れは月額850億ドルのうち450億ドルが米国債を対象としたものであるため、連邦財政赤字を全てではないにせよ、その大部分を賄っていると指摘した。こうした状況は長続きしないと同氏はみている。

 18日にはこのような懸念も浮上したが、FRBが景気下支えを続けることで米経済は今後難局に直面しても乗り越えられるとの楽観論によってかき消された。

 こうした不透明感自体がやがて株価を圧迫すると懸念する投資家もいる。

 INGインベストメント・マネジメントのチーフ投資ストラテジスト、ダグ・コート氏は、予想に反して緩和策の縮小開始を見送ったことで、FRBの信認が低下したと言う。コート氏は「非常に戸惑っている」とし、「生活のために(資産運用を)行っている。あまりにも困惑させられるというのは、いかがなものか」と述べた。
(引用元:ダウ・ジョーンズ