2013年11月5日火曜日

11/5スタートトゥデイ(3092)が放つ「WEAR」の衝撃

衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが10月31日に開始した新サービス「WEAR(ウェア)」がファッション業界に大きな波紋を呼んでいる。

 WEARはバーコードスキャン機能などを備えた、ファッション特化型のサービスだ。

 専用のアプリをインストールしたスマートフォンなどで、店頭に掲示された「チェックインバーコード」に次いで商品のバーコードを撮影すると、その商品の価格や色などの詳細情報やコーディネートの例などを見ることができる。店頭で下見をし、買わずに家に帰ってじっくり考え、気に入ったらゾゾタウンなどのネット通販サイトで好きなときに買える。

■200以上のブランドが参加

 同じ商品でも異なる色柄やサイズが店頭在庫にない場合、WEARを活用することで販売機会の損失を減らすことができる。「ユナイテッドアローズ」や「アーバンリサーチ」など200以上のブランドがサービス開始当初から参画をした。

 「お客さんにとってもブランドさんにとっても、間違いなく便利なサービスになると思う」と、前澤友作社長は自信たっぷりだ。

 しかし、今年6月にWEARが公表されて以来、駅ビルやショッピングセンターなどの商業施設は警戒感を露わにした。「リアルの店舗がショールームのように扱われては、商売上がったり」(関係者)という反発があるためだ。

 商業施設はテナントとして入っている衣料品専門店の売り上げに応じた賃料収入が最大の収益源。WEARを介してゾゾタウンやブランドのECサイトで衣料品を購入された場合、商業施設の売上高は減少を免れない。そのため猛烈に反発しているのだ。

■写真撮影を禁止

 駅ビル大手のルミネは「WEAR」が発表された後、「館内での写真撮影は原則禁止」という文章を入居テナントに通達した。バーコードスキャン機能を利用させないように、暗にテナント側にプレッシャーをかけた形だ。

 自社ECサイトを強化している百貨店の三越伊勢丹(三越伊勢丹ホールディングス)も店内でのWEAR使用を許可しない方針を示した。

 結局WEARは、商業施設などからの想定以上の反発を受け、許可された施設内でしか使用できないように「チェックイン機能」を追加することで騒動の収束をはかった。こうした準備のために、当初9月に予定していたサービス開始時期は、10月31日までずれ込んだ。

 その同じ日に都内で開かれた第2四半期(2013年7~9月期)決算説明会に、前澤社長はバーコード柄の「WEAR」Tシャツで登場。「今朝まで作業して、なんとか今日に間に合わせることができた」と、安堵をにじませたのもそのためだろう。

 反発が相次ぐ中、商業施設大手の中では唯一、WEARの導入を決めたのがパルコだ。「テナントのプラスになるなら導入する方針。集客の効果にも期待している」(パルコ)。11月8日から来年4月末までの約半年間、渋谷、池袋、名古屋、千葉の4店舗でWEARのバーコードスキャン機能を実験的に導入する。

 導入に踏み切ったのは、パルコでWEARを使った消費者がネットで商品を購入した場合、売り上げの数%の手数料が支払われるという条件が提示されたためと推察される。11月8~21日(名古屋店は25日まで)には、館内をWEAR一色に染め上げる大々的なプロモーションを予定している。

 ただし、パルコにも新サービスへの抵抗がまったくなかったわけではないだろう。「あくまで一部店舗での半年間のトライアル」と位置づけており、5月以降も継続するかは現時点では決まっていないという。

 前澤社長は「(商業施設に)WEARを導入していただくのを最優先に、システムや金銭的な面で柔軟に話し合う準備がある」と、パルコに限らず商業施設ごとに条件交渉を行う姿勢を示した。

 WEARには物議をかもしている「バーコードスキャン機能」のほかにも、いくつかの斬新な機能がある。衣料カテゴリーやシチュエーションなどからコーディネート写真を検索できる「コーディネートレシピ機能」、自分の手持ちの服をデータベース化して管理したり、日々の自分の着こなしを写真で記録したりする「マイクローゼット機能」などだ。「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)機能」で友人やショップ店員などのコーディネートやコメントを見ることもできる。

 このようなWEARの機能が実現したのは、ゾゾタウンで10年近く積み重ねたノウハウがあるからだ。スタートトゥデイはWEARアプリのダウンロード数でゾゾタウンの会員数に匹敵する500万を目指している。

■ビジネスモデルが不透明との指摘も

 とはいえ、ビジネスモデルには不透明な面がある。決算説明会の場でも、WEARが何で利益を稼ぐのかについての質問が相次いだ。

 前澤社長は「今は利用者層と店舗の拡大に力を入れる。今期中はマネタイズ(収益化)するつもりはない。(収益化方法としては)各ブランドのウェブサイトへの送客手数料や、優れたコーディネートレシピへの課金など、いろいろなことが考えられる」と説明するにとどめた。

 まだまだ荒削りな点が目立つ。大きなポテンシャルがあるものの、解決すべき課題も多いサービスといえるだろう。