2013年8月29日木曜日

太陽嵐が、金融マーケットをリセットする日

アメリカは1999年から「Xデー」に向け、準備済み
(以下引用)
「実はここだけの話、わが社のファンドは2008年のリーマンショックも、そして11年の東日本大震災でさえ、乗り切ってきました。その際、最前線でギリギリの投資判断を行ったのがA常務です。そう聞くと『一体、何を判断基準にしてそのように巧みな投資判断を行ったのか』といぶかしく思うかもしれません。当人が私にだけ、こっそり教えてくれたのですが、実は彼が見ているのはただひとつ、太陽の黒点なのです。そしてその数と動きを毎日チェックすることで、地球上の出来事との相関関係を推察し、それで最終判断をしてきたのです」

太陽嵐が吹き荒れた1859年を上回る被害も?

「まさか、そんなことがあっていいものか。個人投資家からカネを集めるときには、やれ金利だ、指標だともっともらしいことを言っておきながら、実際には“お天道様”次第で大事なマネーの運用をしているとはいったい何事か」。そう怒る向きもいるかもしれない。だが、ぜひ一度、冷静に考えてもらいたいのである。マーケットを見るにあたって、なぜ“太陽”こそが大切なのか、と。
太陽嵐とは太陽の表面上で巨大な爆発が起こり(太陽フレア)、それによって爆発的な太陽風が放出されることによって、電磁波・粒子・粒子線が宇宙に向けて飛び出していく現象のことを指している。当然、この強力な「風」、すなわち「太陽嵐」は太陽系の惑星であり、私たちの暮らす地球にも甚大な影響を与える。

それでは「太陽嵐」がいったいどのような影響を地球に与えるのだろうか。歴史上、記録が残っている限りにおいて最大の太陽フレアが観察されたのは、今から154年前の「1859年」のことである。
このとき、8月28日から9月2日までの間、巨大な太陽フレアが観測された。そして通常であれば粒子が地球に届くまで数日かかるところを、計算するとたったの17時間で太陽嵐が地球を襲うことになったのである。その結果、米欧をはじめ、わが国においてですら「オーロラ」が観測され、場所によっては「夜なのに昼」であるかのような状況になったことが知られているのだ。

驚くべきなのはこれだけではない。当時、最も甚大な被害を受けたのは、使われ始めたばかりの「電信」施設だった。なぜならば電信用の電線に通電していないにもかかわらず、太陽嵐からの充電が行われた結果、放電が発生したからである。米欧の各地で通信手段としての「電信」は不通となり、大混乱となったのである。

そして2013年の「現在」。わが国のマスメディアは不思議と大々的に「そのように意義深い事案」としては報じていないが、8月5日にアメリカ航空宇宙局(NASA)がその公式ホームページ上でひとつの重大な発表を行った。「これから3~4カ月以内に太陽で極域磁場の転換が発生する」というのである。

極域磁場の転換、すなわち陽極と陰極が太陽で反転すること自体は、不思議なことではまったくない。これは11年周期で起きることであり、この11年のサイクルのことを「太陽周期」と呼ぶ。現在は2008年から続く第24太陽周期の最中である(ちなみに「1859年の太陽嵐」が起きたのは第10太陽周期においてである)。
その限りにおいて、このNASAによる対外発表は、あまり意味のないもののように思えなくもない。そのせいであろう、先ほども書いたとおり、わが国のマスメディアはこのことについて黙したままだ。

金融マーケットが太陽嵐の「被害者」になる可能性

しかし海の向こう側においては、まったく事情が異なっている。たとえばドイツの代表的な週刊誌「デア・シュピーゲル」は2013年8月12日号で太陽物理学の研究者であるトッド・ヘクセマ米スタンフォード大学教授の言葉を引用しながら、こう述べている:
●太陽周期の中間で、太陽における極域磁場の転換が発生する場合、これには強烈な太陽活動が伴うことになり、宇宙空間は「嵐」にも似た状況になってくる。
●その結果、粒子が大気圏の上層部にぶつかり、衛星通信に障害が出る可能性がある。また今年(2013年)の冬にはオーロラがとりわけはっきりと見えることであろう。
ドイツのメディアらしく、客観的かつ抑え目の表現ではあるが、要するに「1859年の太陽嵐のときと同じような出来事が地球上で発生する危険性がある」というわけなのだ。いや、もっと正確に言わなければならない。その後の技術革新、とりわけ電気通信手段の革新を前提にした場合、巨大な太陽嵐が今回発生するならば、「あの時=1859年」の比ではないほどの被害が生じることは目に見えているのである。

そしてそこで最大の「被害」の現場となるのが、金融マーケットなのだ。実物の紙幣として発行されているマネーは、世間で流通しているマネーのほんの一部であり、大半は電子データとして管理されている。いわゆる「信用創造」によってこのようなことが可能になるのであって、たとえばわが国の場合、「実物の紙幣」としての日本円は、「ヴァーチャル」な意味での日本円も合わせた金額の、実に5%しか流通していない。後者のような「日本円」は、インターネットなど電気的な通信手段によってやり取りされ、決済されているのである。

ところがそこに世界史上、まれに見る規模での「太陽嵐」が発生するならば、いったい何が起きるであろうか。目に見えない電磁波・粒子・粒子線は世界中の至るところ、特に先進国に張り巡らされた電気通信網の中に入り込み、そこでやり取りされている無数のデータを破壊し尽くすはずだ。その中には電子化された「マネー」や「有価証券」がもちろん入ってくる。そしてそれらもまた容赦なく、太陽からの目に見えないビームによって焼き尽くされていく――。

「そのような出来事が起きるのは、まったくもって信じられない。それにわが国は世界でも屈指の対外純資産を抱えた“金満国”だ。何があっても倒れるはずはなく、大丈夫なはずだ」

最近、若い「評論家」の方々がそう口々に叫んでいるようだが、私の目からすれば、まったくもって笑止であり、リスク・マネジメントを知らないお気軽な議論でしかない。結局のところ耳触りのよい愛国主義を語り、リスク・マネジメントの基本である「Think the Unthinkable」すなわち“考えられないことだから考える”というプリンシプルを語らない御仁たちの議論はエンターテイメントでしかなく、未来に向けた生き残りを考えるにあたっては顧慮に値しないのである。

日米欧は「金融新秩序」へ?

しかも、事は彼らの議論のように一国単位の話ではないのだ。そうしたわが国の「日常的な経済評論界」における現状を脇に追いやりつつ、私が読者にぜひしてもらいたいことがひとつだけある。それは「仮にあなたが世界のリーダーであるならば、この太陽嵐という“人智を超えた”究極の事態を迎えるかもしれないときに、とりわけマーケットで何を画策するか」という点である。
そう考えたときの答えはただひとつ。「量的緩和によってマネーの量が膨れに膨れ上がったものの、何ら解決されない金融メルトダウンを最終的に決着させること」である。アメリカのオバマ大統領であれば、天文学的な量となった連邦レヴェルでの公的債務をなきものとし、あわせて量的緩和(QE)をやめるだけではなく、まったく新しい通貨、そして経済体制への移行を宣言するはずだ。
あるいはドイツのメルケル首相であれば、このままでは永続的に膨らむ債務を抱えたギリシアなど南欧諸国との関係を、これを機に断ち切り、同時に「ユーロ」をやめ、まったく新しい通貨、通貨圏の創造へと突進し始めるはずだ。
そしてわが国の安倍晋三総理大臣であれば、公然とデフォルト宣言をするまでもなく、莫大な財政赤字を帳消しとし、他方で何らかの秘策を打ち出すことで、米欧との比較でわが国が優位であることを示し、一気に世界史の正面へと躍り出ようとするはずだ。
だが、事はそう簡単には進まない。「太陽嵐」が吹きすさぶそのタイミング(今年9~11月、ないし12月)で、ありとあらゆるリスクが「同時多発的」に炸裂するのであるから。それでは最後に、いったい、その中で誰が生き残るのか。――世界史のエンドゲームはもう始まっているのだ。
(引用元:東洋経済)