週末28日の日経平均株価は400円を超す大幅上昇となり、米国の量的緩和第3弾(QE3)の縮小や中国の金融システム不安に揺れた市場心理はひとまず落ち着きつつあるようにも見える。株や為替などの相場は今後どう展開するのか。
――6月の最終週は木曜、金曜の2日間で日経平均が800円を超える上昇となった。この株価上昇をどう解釈したらよいか。相場の潮目が変わったのだろうか。
T: 5月23日の日経平均の急落から始まった世界的なミニバブルの調整が一段落しつつあるとみている。新興国はまだ波乱含みだろうが、日米欧の株価については下値不安がかなり後退した。日本についていえば、為替の円安傾向が復活しており、今後、それに後押しされた緩やかな株高局面が訪れるのではないか。ただ、本格的な業績相場に移行するのは秋口以降だろう。
K: 強気になるのはまだ早いと思う。月末の日経平均の大幅上昇は、ドレッシング(お化粧)買いといわれる海外の年金基金やヘッジファンドなどからの、期末特有の買いが入っていることが大きいと聞く。値がさで日経平均への影響度が大きいファーストリテイリングの株価などにも、これまであまりみたことのないような、ヘッジファンドからとおぼしき仕掛け的な買いがみてとれた。基本的な外部環境が変わったわけではなく、まだ相場に方向感は出ていない。
――為替相場はどうか。
G: 足元では米国の経済指標が良ければ金利が上昇してドル高、指標が悪ければ緩和継続期待から米国株に資金が流れ、これもドル高。ドルが買われやすい状態になっているのは確かだ。ただ、これによる円安・ドル高が傾向的なものかというとそうは思わない。
エコノミストに試算してもらったところ、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)でみると、1ドル=90円台前半までしか需給要因による円安は進んでいないという。残りは黒田日銀の異次元緩和などを材料に短期の投機筋が積み上げた円安だ。ヘッジファンドなどの投機筋はいまも市場のボラティリティー(変動可能性)を利用してもうけようという意識がある。短期の買いや売りで相場が揺れ動く格好で、7月はまだ落ち着かないのではないか。
――FRB(米連邦準備理事会)のバーナンキ議長が、6月19日のFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見で、QE3縮小についてかなり踏み込んでスケジュールを示し、世界の市場が動揺した。QE3の縮小は今後、マーケットにどのような影響を及ぼすか。それとももう落ち着いたのか。
T: 超金融緩和の「出口」戦略は今後1、2年間は続くテーマだ。ただ、いつどのように進めるかは市場だけでなく、FRBの中でも見解が分かれていると思われる。一気に量的緩和の解除、さらには短期金利の引き上げに踏み込めるほど米国の景気が強いわけではなく、当然それに対する配慮がある。米景気と緩和解除との微妙な間合いをその都度織り込みながら市場は動いていくことになると予想される。なので、極端な相場展開にはならないのではないか。
K:バーナンキ議長が「失業率が7%に近付けば金融緩和を縮小する」と発言したことについては、そのまま受け止めていいのではないか。とすれば、月間850億ドルの資産買い取りという未曽有の緩和策の「出口」がいよいよ現実の問題となってきたということだ。過去に経験のない事態であり、市場もこれを消化したという状態にはまだ遠い。今後も、新興国通貨や債券など、QE3の縮小が影響を与える市場の値動きに目配りが必要だ。
――中国の銀行間金利が急上昇し、市場はシャドーバンキング(影の銀行)問題など中国リスクを認識するようになった。この問題のインパクトをどうみるか。
K: 中国の企業や地方政府は、高利回りをうたった「理財商品」などのシャドーバンキングによって、規制の外で資金を調達してきた。その資金が投資に振り向けられることで高成長が演出されてきたというのがこれまでの中国経済だ。しかし、賃金が年率で2ケタで上昇する一方で、企業の売り上げの伸び率が1ケタにとどまるなど、無理が表面化しつつある。
7月15日に4~6月の中国のGDP(国内総生産)が発表されるが、その数字次第では相場も一揺れあるかもしれない。市場では「7月危機説」などがまことしやかにささやかれている。株についていえば、中国関連銘柄は慎重にみたほうがよいかもしれない。
T:中国は低成長に移行するなかで、不良債権問題を解決しなければならない。野放図な投資によって利益を生まない不稼働資産が大量に蓄積されており、米国の量的緩和縮小と同様、今後2年以上は続く大きなテーマになる。現政権はこの問題の実態の把握を含めて、解決へのシナリオをまだ描けていないようにみえる。大なり小なり不良債権問題を抱える中国の金融機関や地方政府の背後には必ず権力者がおり、政治問題としての難しさもあると思われる。
ただ、今回の短期金融市場の混乱によって当局に学習効果もあったとみられ、不安定ではあっても大混乱には陥らないのでは、という感じもある。
G: 中国については正直言って分からない。ただ、日本や米国などの金融政策を取材してきた感覚で今回の銀行間金利の上昇問題を眺めていると、まだ問題はそれほど差し迫っていないのではないかという印象を持った。本当に金融危機なのであれば、金利の急上昇を放置することは考えられず、短期市場にお金を大量に供給し、危機に陥った銀行があれば個別対処するというのがセオリーのはずだ。中国の短期市場にあった特有の問題に、米国の緩和縮小が重なったために、問題が当局が思っていた以上に拡大してしまったようにみえた。
――米国の緩和縮小と中国リスク。市場にとって、どちらのほうが大きな問題か。
K: マーケットは未知の問題が浮上したときに反応する。そういう意味では中国問題のほうが大きな問題といえるかもしれない。米国の緩和解除はある程度想像がつかないでもないが、中国のことはなにしろよくわからない。日銀の金融政策や参院選、7月後半から始まる企業の4~6月期決算発表など、日本個別の要因は株式相場や為替相場にどのように影響するか。
日本の4~6月のGDPは期間中、為替がおおむね円安だったこともあり、良くなるだろう。日銀も追加緩和をする必要はないはずだ。市場も日本は巡航速度でこのまま続くことを前提としている。よほどのサプライズがないと国内要因で相場は動かない。米国や中国などの海外要因に比べると、相場を動かす材料としてはインパクトが弱いだろう。
K; 円安効果などによって、企業決算は今期、経常利益ベースで3割以上の増益が見込める。日本企業の地力は向上しており、円相場が1ドル=95円くらいでもかなりの収益力、競争力の向上につながる。予想以上によい業績数字が出てくれば、株価の裏付けができる。7月下旬には相場が落ち着くことも考えられる。参院選後は自由民主党の圧勝が予想される中、安倍首相が成長戦略についてさらに踏み込んだ発言をするとの期待から、相場の浮上が見込めるかもしれない。
――一時不安定になった長期金利の見通しはどうか。
T: 長期金利の指標である10年債については利回りが0.9%を超えると地銀の買いが入り、15~20年の超長期については1.5%を超えると生保が買い入れる。一時的なオーバーシュートはあるかもしれないが、金利情勢はややおちついてきている印象がある。10年債利回りは現状の0.8%台で推移するのではないか。
ただ、国債の需給について一言言っておくと、本来の国債の買い手であったメガバンクが市場から退出してしまったのはやはり問題だ。4月4日の異次元緩和以降、市場が不安定になり、メガバンク内部のルールで、価格変動が大きい国債を大量には買えなくなってしまった。乱高下を止めるメーンプレーヤーがいなくなったため、少ない買い手の中で金利が動きやすい状況になってしまった。日銀の失敗だと思う。――今後のマーケットを見通す上で、他に目配りが必要な点などはあるか。
G:6月末の2日間で日経平均株価は800円以上上昇し、1万3677円まで回復。円相場も1ドル=99円台と、100円に近づいている。7月の初旬に投機的なポジション(投資家の売り持ちや買い持ち)の調整がうまく進めば、7月後半に参院選という安心材料があるので、もう一段の株価上昇、円安を目指す展開がありうるのかもしれない。
ただ市場には、ヘッジファンドなどが、もう一度4月以降のような乱高下を仕掛けるのではないかという思惑があるようだ。こんななかで日経平均が1万5000円台を目指すような過熱感が出てくると、再び調整リスクが大きくなる。短期資金が主導する乱高下の激しい相場はFX(外国為替証拠金取引)や株価指数先物で勝負したい投機家にとっては望むところの展開かもしれないが、中長期で運用したい人にはやけどしやすい環境だ。
日本の市場がこうした乱高下の激しい相場になった背景には、新規のヘッジファンドの参入があるとみている。それまで乱高下が激しかった南欧や新興国を舞台にしてきたヘッジファンドが、異次元緩和という要因が加わった日本に目を向けた。日本もボラティリティーが高い新興国と連動性が強い市場になっている。
T: 7~9月期は終わってみればボックス圏内で推移するのではないかと見ている。ただ、地政学リスクは懸念材料だ。中国の現政権にはまだ安定感がないだけに、尖閣諸島を巡って、周辺で何か起きれば、日本にとっては下向きのインパクトになるだろう。一般に、経済など内政で苦労する時期は、為政者に国民の目を外に向けるインセンティブが働くのも気がかりなところだ。
K: 業績でみると、日経平均株価ベースのEPS(1株利益)は現在、890円。PER(株価収益率)が(妥当な水準とされる)15倍とすると日経平均は1万3400円見当となり、いまの株価(1万3677円)とだいたい同水準だ。ここから考えると、好調な企業業績で多少の上ぶれ余地はあるのかもしれないが、株価がどんどん上昇するとは考えにくい。ただ、今後何らかのきっかけで1万2000円近くまで下落するなら、値ごろ感はある。業績面で信頼できる企業の株を買うチャンスになると思う。
目先についてはやや弱気なことを言ってきたが、金価格の急落や、QE3縮小宣言を契機に、投資のルールは変わりつつある。米国のサブプライム問題から始まった金融危機の時代が終わり、経済は正常化していく。長い目で見ると、日本株、米国株の時代がやってくると見ている。